2023年02月21日 耐震
【微動探査】~建物編(後半)~
今月6日トルコ南部シリア国境付近で起きた巨大地震。甚大な被害が出ているとの報に接し、犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に対し心よりお見舞い申し上げます。
甚大な被害が明らかになる中で、連日の報道で「キラーパルス」「固有周期」「共振」などの言葉が出てきていますが、「微動探査」ではそのリスクを数値化、対策を立てることが可能です。
本題に入る前に地震で甚大な建物被害がどうやって起きるのか、という内容について少し触れてみたいと思います。
地震で甚大な建物被害が起きる現象「キラーパルス」
トルコ・シリア地震で、建物での被害が拡大している可能性として「キラーパルス」が発生したと言われています。
地震の揺れには「周期(1回に揺れる時間の間隔)」があり、1秒未満、1~2秒、それ以上に長いものがあります。
キラーパルスは、1~2秒間隔で揺れる周期で、この周期が低層から中層の建物に大きく影響を及ぼします。キラーパルスは日本でも起きています。それは、2016年熊本地震と2004年新潟中越沖地震、1995年阪神淡路大震災の時です。
熊本地震では全半壊・一部損壊家屋は約21万棟、阪神淡路大震災では約25万棟もの家屋が全半壊しています。
それよりもマグニチュードが大きかった東日本大震災では、周期が1秒未満だったため、キラーパルスは発生していません。津波発生の有無もありますので一概に比べられませんが、建物被害の割合が減少していたとのデータもあります。


引用:総務省消防庁「東日本大震災記録集」
建物の固有周期が変わる!?
建物固有周期の目安は以下の通りです。
- 耐震性能高い住宅:0.3秒未満
- 耐震性能低い住宅:0.3~0.5秒未満
- 耐震性能かなり低い住宅:0.5秒以上
キラーパルスの周期が1~2秒に対し、何故共振が起きるのか?
耐震性能が高い住宅は、地震の影響を受けても変形しませんが、耐震性能が低い住宅の場合、地震の影響を受けた際に、建物が変形し結果的に固有周期が0.5秒を超えてしまうからです。
つまり、固有周期は損傷していない初期状態での周期を指し、ある程度壊れてきた状態での周期(等価周期)に対して、キラーパルスが発生すると共振し、倒壊するということです。
耐震等級2の住宅も倒壊した熊本地震では、震度6弱以上の激しい揺れが7度起き、建物が損壊した状態で共振してしまい、被害が拡大しました。熊本地震から学んだことは、建物の耐震性を高め、繰り返し起きる地震に対して備えなければならないということです。
この辺りは、構造塾の佐藤さんのYouTubeなどご覧いただいた方が良いと思います。とにかく耐震等級3は必須で繰り返しの地震にも耐える家づくりをしていかなければなりません。
さて、お待たせいたしました。ここからが本題です。
微動探査の地盤編(前半)の続きにもなりますので、あわせてご覧いただければと思います。
前半部分の微動探査の結果では、今回の建築地が軟弱な地盤で、共振の恐れが高いということが判明。
建物も狭小3階建てペントハウス付きで不安が残る内容でしたので、制振ダンパーを提案させていただき、工事着手。
構造躯体完成後の構造むき出しの状態で、微動探査を行いました。
「微動探査」で分かること(建物編)
①地盤と建物の「固有周期」
固有周期とは、揺れが一往復するのにかかる時間(秒)で、軟弱な地盤や耐震性能が低い建物ほどその時間が長くなります。
また、地盤と建物の周期が合わさると「共振」が起こり、地震時に大きく揺れ、建物が損壊してしまいます。
固有周期の調査は微動計を地盤部分と1階~3階の中心に計4ヵ所に配置し測定します。


右画像 引用:株式会社Be-Do
※左画像は、診断レポートからです。剛心④は周期④の間違いですね。
②建物の「剛心」位置
剛心とは、建物の強さの中心です。建物には重さの中心の重心もあり、剛心と重心は必ずしも一致するとは限らりません。
また、その距離が建物の中心から離れると、建物がねじれに対して弱くなり脆弱になります。

引用:「構造塾」テキスト2019版
先日、Twitterで佐藤さんが無料で配布していたテキストから引用です。構造塾での勉強にありがたく活用させていただきます。
剛心の調査は微動計を最上階の四隅に配置して測定します。


右画像 引用:株式会社Be-Do
「微動探査」の結果
①地盤と建物の固有周期と共振の可能性

建物の固有周期:0.13秒
地盤の固有周期:0.59秒
共振の可能性は低いと考えられ、建物固有周期が0.3秒未満で耐震性能が高いと評価されました。
②建物のバランス、剛心と重心

剛心と重心の位置がほぼ中心で一致。建物のバランスが良く変形しにくいと評価されました。
「微動探査」を終えて
地盤時の調査では、共振の恐れが高いと評されていましたが、許容応力度計算や制振ダンパーの提案で共振の可能性も低く、バランスの取れた高耐震住宅という結果になりました。
安心できる結果になり、ホッとしています。以上が、今回の物件での微動探査の全容ですが、
今後、微動探査は注目されていくこと間違いないと思います。
ポイントは、実測値ということです。
実測して数値化することにより、耐震性能を確認することが出来ることが何より安心できる点だと思います。
現在の耐震性能は、あくまで「耐震性能あるはず」です。
新築設計時に耐震の計算は行い、施工中に耐力壁や金物の確認はしますが、何を根拠に耐震性能があると言っているのか。現に熊本地震で建築基準法で定められている耐震基準の1.25倍強度がある住宅が倒壊しています。
また、耐震リフォーム。耐震診断もしますが、果たしてどこまで正確に診断されているのか。補強した後の建物のバランスは?経験や勘を頼りにするのではなく、ビフォーアフターの耐震性能を数値化して確認できる微動探査は活用すべきだと思います。
また、新築時や耐震リフォーム直後に測定しておくと、将来的に地震が来た後に微動探査をすることによって、建物の損傷具合をチェックすることも可能となります。繰り返し起きる地震に対して、安心して過ごすために、微動探査を活用してみてはいかがでしょうか。